日々ネタ      2014.05.21 ( 最終更新日:2014/06/14 )

モーションの見積もり方法の開示

※この記事は、修正、追記を行っていきます。

僕の愛読書「人月の神話」の著者ブルックスさんが、「企業は見積もり方法を開示するべき」と仰っていたので
勇気を出して僕が行っているキャラクターアニメーションの見積もり方法を開示します。

【工数見積もり】
「作るのにどのくらい時間がかかるのか」、から価格を導き出す方法です。当社が見積もっている方法です。

例えば・・・
この格闘ゲームのパンチのモーションは1日かかるので4万円。
1キャラクターのアクションのセットは1ヶ月かかるので75万円。
20カット、キャラクターのアニメーションとカメワラークに2ヶ月かかるので150万円

とかです。なんとなくわかるでしょうか。すべてオーダーメイドで制作した話です。

1人が1月働く工数単価を「人月」と呼び、その料金を「人月単価」と呼びます。弊社では一般的な1人月単価である60万~80万円で推移しています。制作者の能力や、仕事の難易度、市場原理、神の見えざる手によって会社ごとに設定されます。ちなみに1人が1日にできる工数単価は「人日」です。人月を営業日数で割ったものです。ひと月の営業日数は20日とみなされるのが一般的です。
60万~80万円という数字は、働いたことのない学生さんからみれば、高いと思われるかもしれませんが、1人1月の人件費は、うちのような零細企業でも50万くらいかかっているので、こんなもんが企業としての最低相場です。フリーランスについてはフリーランスのモーションデザイナーに聞いてみてください。

この見積もり方法は、顧客に納得してもらいやすい反面、取り返しのつかないボロが出やすいです。仕様変更、リテイク、遅延が発生すると、工数割れ(1ヶ月70万で受けた仕事が1ヶ月半以上かかった)(一人のところを二人がかりでやった)(1日8時間の作業量を毎日残業して1日16時間でやった)をおこし、いとも簡単に赤字化します。そういう事態になったときのために(ならないために)、顧客と事前の打ち合わせをしっかりしておく必要があります。特に顧客がどれくらいの品質を求めているのか、リテイクを予算に組み込んでおくか否かは超重要項目です。顧客から見積もりのための情報を聞き出すのは受注側の仕事です。

この工数見積もりの最低最悪なところは
制作担当者が仕事の遅い人、ヘタな人ほど高額になる」というしょうもない見積もりになってしまうことです。ですからこの見積もりを導入するにはアニメーターの能力による人月単価の調整と、制作側のサポート体制を万全にしておくと良いでしょう。

私たちはこの工数見積もりをより正確に出すために、モーションのサンプルを作り、スケジュールを立ててから価格を提示するようにしています。慎重に慎重を重ねているわけです。

よく、モーションの相場を聞かれますが、答えようがないのはこのためです。コストを重視したいのであれば、いくらでも安くなります。パンチのアクション1つをやっつけ仕事でやれば30分で出来ます。逆に動かすところが沢山あり、激重シーンのロードに1分もかかって、かつツールはアレで、仕様変更、モデル差し替え、リテイク無制限というのなら、1つのパンチアクションでも2週間かかる場合もあります。

価格差にすると、1モーション2000円~36万円くらいの差です。

さらにいうと、大量の人材を必要とする大規模プロジェクトの場合は、管理者用の工数がかかります。必然的に打ち合わせが多くなり、データの不備も多くなるでしょう。実制作の時間よりも
対応に追われる時間が大部分を占めることもなきにしもあらず。やってみなけばわからないことだらけです。

【秒数単価見積もり】
アニメーションの秒数またはフレーム数で見積もる方法です。工数以上に見積もりがわかりやすいメリットを持ちます。

例えば、1フレーム200円とすると
・不安そうにゆっくり周りを見渡す主人公=300フレーム 60000円
・びっくりして振り返る=30フレーム 6000円
・あわててオープンカーに乗り込むもハンドルが取れて車外に放り出される=60フレーム 12000円

ゲームアクションであれば1フレーム500円
・待機 = 60フレーム 30000円
・パンチ = 30フレーム 15000円

当社では好んではやりませんが、顧客の要望により何度か行ったことがあります。
この見積もり方法を行う時には次の条件を用意するといいでしょう。

1、同じようなモーションばかりであること。
2、難易度が一定であること。違うものは秒数単価を変更すること。
3、制作料金以外の手数料を取ること。工数見積もりに含まれるが、秒単価には含まれてない仕事として
4、リテイク数、トラブル対応などしっかり打ち合わせをしておくこと。

秒数で価格を決定するということは、仕事の価値をアニメーションの長さで評価するということになります。
個別に難易度を設定、もしくは難易度を統一させないとモーションの価値があべこべになります。
例えば、上記の例にある、
・不安そうに周りを見渡す主人公=150フレーム 60000円は
キーポーズをそれほど必要としない簡単なアニメーションといえますが、それに対して、
・あわててオープンカーに乗り込むもハンドルが取れて車外に放り出される=60フレーム 12000円
はキーポーズも多く制作時間は何倍もかかるでしょう。なのに、こちらのほうが低価格です。
ゲームアクションもアクティングに比べ影響力は小さくなりますが、それでも上記の例では
アニメーションの価値が逆になっていると僕は感じます。

合計金額が工数見積もりよりも、同等、または高めの金額になれば、受注側としては得となりますが、それでは
顧客を欺くことになります。制作しているアニメーターも憤慨するかもしれません。
やはりここは、アニメーションを商品として提示する方向で考えていくのが良いと思います。

この秒数単価見積もりでも、1~6段階の難易度を設定しそれぞれに秒数orフレーム単価を設定してあげると
あべこべにならずに見積もることが出来ます。

どちらにせよ顧客との打ち合わせは必須であり、情報の乏しいモーションリストのみで見積もるのは現実的ではありません。
また、モーション以外の工数、仕様変更、モデル差し替え、リテイク数、遅延への準備に備えた話し合いも忘れてはいけません。

他にもモーション一つ一つに価格を設定し、その根拠も説明した「超詳細見積もり」
両方の利点を活かした「ハイブリット見積もり」なども行ってきましたが、
現在では「サンプル制作とスケジューリングをしてからの工数見積もり」に落ち着いております。

見積もり方法を企業が開示すると、「面倒くさい。安く買い叩けない」と感じる人も多く
メリットよりもデメリットのほうが大きいのだと思います。
ただ、前例がないこと、見積もりの根拠をよく聞かれること、アニメーションを専門で制作する会社が増えてきたことを考え、
何かしらの参考になるかと思い、またブルックス先生の後押しもあって公開させていただきました。

AUTHOR

sumioka