日々ネタ      2013.07.19 ( 最終更新日:2017/06/09 )

テレワークを導入しようとして分かったこと

増える「テレワーカー」 実態はサービス残業の増加? (Yahoo Japan)

 産経新聞に興味深い記事が載っていました。「テレワークって思ったより流行ってないみたいよ」 って内容です。

 記事によると、テレワークで働く人は、平成22年から昨年まで、およそ3倍に急増しているのに対して、テレワークを導入する企業は 平成22年の12・1%から24年は11・5%に減少しています。在宅で働く人は増えているけど、逆に在宅業務を導入する会社は減っているとのこと。なんということでしょう。需要と供給が反比例の関係になっています。

テレワーク人口実態調査

 この記事ではその理由を、「残業のかわりに仕事を家にお持ち帰りしている人が増えたからじゃないか」 と伝えています。確かにITツールが普及した時代ですから、プライベートと仕事の境界線なしにメールや企画書を書く機会も増えているのでしょうね。でも理由はそれだけじゃないような気がします。

 当社も在宅業務を導入するべく試行錯誤してまいりました。社内でテレワーク環境を作って実験したり、テレワークスタッフを募集し試験的に導入してみたり。テレワークセミナーに足を運んでみたり。2年くらいダラダラとテレワークの導入の可能性を探ってみましたが、いまだ本格的な導入には至っていません。

 いったいこの2年間に何が起こったのでしょうか。振り返ってみましょう。

■ 当たり前すぎて気がつかないけど、盛大に採用対象を狭める応募条件

 会社ってのは通勤圏内にありますよね。どんなに遠くても電車で2時間以内。そう考えると求人対象になるのは会社の半径30Km圏内にお住まいの方限定になるわけです。もちろん会社の近くに引っ越してもらうという手もありますけど一気に敷居が高くなる。人にはそれぞれ事情ってものがありますから。上京したくてもできない人、結構多いんじゃありません? 

 特に安定思考の方はさらに難しい。大手企業に就職!のような大きなチャンスであれば上京に見合う価値はあるかもしれませんが、中小零細企業でいつクビを切られるかわからない非正規雇用になるくらいなら、上京をあきらめ地元で職探しをするのが普通の考えです。東京の家賃・・・高いですからね。

 会社としては長距離通勤者の体調管理には不安を覚えますし、支払う通勤手当もバカになりません。正直なところ採用を躊躇してしまいます。

 あまりにも当たり前すぎて普段は気がつきませんが、一箇所に集まって仕事をするという巨大なしがらみ。通勤圏内限定というステルスな応募条件のせいで、有能な人材を集める機会は確実に盛大に損なわれているはずです。

■ 日本全国に散らばる有能な人材を集めるための最高の手段 

 僕はこれを一発で解決する方法として、テレワークの可能性に着目しました。PCとソフトがあれば3DCGアニメーションは作れます。東京で仕事をする特別な必要性がないのであれば、ネットで指示を出し、自宅で作ってもらい、データを本社に納品してもらえば良いのです。情報漏洩に対する懸念さえ払拭できれば、なんて素晴らしいアイデアでしょうか。

 半径30Km圏内という求人条件が半径1000Km圏内にいっきに拡大。北は北海道、南は沖縄までどんなに離れたところからも仕事が出来るようになります。もう毎日の満員電車でストレスを溜め込まないで済むのです。会社は通勤手当を支払わなくてもいい。地域による経済格差もなくなり、家族サービスも増える。育児もできれば、親の介護もできる。引きこもりの人達も自分の部屋から出ずに仕事ができる。まさに日本を救う希望の働き方です。そりゃあ国も雇用政策の一環として推し進めるわけです。

 今から2年ほど前、当社は常時雇用型テレワーク導入の検討を始めました。企画書の作成、管理や指導のマニュアル作り、チャットツールの検証、導入までの長期スケジュール、予想される問題の洗い出しと解決方法、スタッフによる実施試験では小さな問題は出ましたが実用には耐えうるものでした。またテレワークスタッフの募集においては、通常の求人募集よりも有望な人が多く応募してくれました。進行は緩やかでしたが確実な手ごたえを感じていました。

 他の業界のテレワーク事情はここで述べる経験を持ち合わせていませんが、こと3DCG業界のテレワークについては実体験から2つ確信を得ることが出来ました。

 1、3DCG制作はテレワークという働き方に適している

 どうやら、3DCGを制作する過程において作業場所というのは重要ではないようです。PCとソフトがあれば仕事はできます。よく、顔を合わせる環境が大事だといいますが、結局のところ3DCG制作の大部分は1人作業です。

 スタッフ実施試験のときは本社と同じ時間帯で作業を行いましたが特に問題はありませんでした。普通に7時に開始の報告をし、会社と同じ時間に休み時間をとり定時に目標とする作業を終えます。他のスタッフとのやり取り、指示のリテイクなどはチャットを使うまでも無くメールとftpで充分でした。常時接続でカメラとマイクを設置し、オフィスにいるような環境を用意をしてみましたが、これはあまり役に立たないばかりか集中力を阻害するものになってしまいました。

 シンプルに制作を一任する。この条件さえ飲めれば特別な環境を用意しなくとも3DCGでのテレワークをする準備は充分に整います。その代わりテレワークスタイルの成功の鍵はテレワーカーの能力に重くのしかかってきます。

 2、モーション制作のテレワークは一流の実力者でなければ勤まらない

 テレワークはオフィスワークに比べで密なコミニュケーションがとれません。このコミニュケーション不足は常時雇用型テレワークにおいて多くの課題を生み出します。人を育てにくい、気軽な意見交換の難しさ、喜びや悲しみを分かち合いにくい。それらの課題は「制作効率を悪くする要因」というよりも、「仕事仲間としての意識を構築しにくい要因」であることのほうが大きな問題となります。ゆえに常時テレワークは、オフィスワークと求めるものが違ってきます。会社はテレワーカーに自由に働いてもらう代わりに責任と結果を求めます。

 実施試験では仕事を一任しているものは問題なく業務が行われましたが、上司(モーションチーフ)の管理の下に作業をする場合は、芳しくない結果となりました。一週間もせずに管理するもの、されるもの、両者のテンションが下がっていきました。どんなにサポート体制を強化したとしても、顔を合わせられるオフィスと遠隔地のテレワークでは、どうしても格差が出てしまいます。

 簡単な仕事を割り振ることでその場しのぎの解決は可能です。しかし、それで自宅にいるテレワーカー本人が長期間モチベーションを持ち続けることができるかは疑問に感じます。雇う側としても、育てる環境が不利なだけに人材育成にかける投資のリスクも大きくなってしまうでしょう。よって、仕事を一任できるだけの実力と、プロとしての責任感をもつ人でなければ、常時雇用型テレワークは非常に難しいものになると判断しました。

■ フリーランス契約って、本当は常時雇用型テレワークを実現させるために作られた契約なのでは

 常時雇用型テレワークを成功させるためには、自宅にいながらオフィスで働くのとまったく同じ条件でなければいけません。しかし、管理のしやすさ、安定したメンタル面や成長性に関していえばオフィスワークには到底叶わない。そこをテレワーカーの能力に頼るのであれば、その人はすでに自立した1人の有能なフリーランスとしても通用しているはずです。

 社員として雇ってから信頼関係をテレワークで築くのは無理があります。綺麗ごとすぎました。それよりも、フリーランスとして信頼のおけるひとをテレワークスタイルで雇う。こちらのほうが現実的です。そこで労使双方の希望が合えば正規雇用にすればよいのです。

 本来の目的、テレワークを使った採用条件の拡大においては、厳しい結果となってしまいましたが、完全な失敗ともいえません。フリーランスの採用を積極的に受け入れる。いきなり正規雇用ではなく順を追って雇用スタイルを変化させていく。オフィスワークからテレワークにシフトする。などテレワークの可能性によって確実に雇用の幅は広がるはずですから。

■ 進撃のクラウドソーシング

 クラウドソーシングという新しいサービスが流行り始めています。

 これは、企業がフリーランスに仕事を発注できる仕事依頼サイトのサービスです。当社の新ロゴは、ランサーズというクラウドソーシングサービスによって作られたものです。ランサーズのサイトにロゴデザインを発注。概要を掲載。観覧した日本中のロゴデザイナーが、ロゴデザイン案を提案してくれます。当社の場合は240件の提案がありました。その中から気に入った一つを採用し、あらかじめ設定しておいた報酬を支払います。とても使い勝手がよく、コストを抑え無駄なやり取りをせずにスムーズに取引が出来ました。

 現在、日本のクラウドソーシングサイトは確認するだけでも26サイトあります。各クラウドソーシングサイトに掲載されている情報によると、ランサーズの昨年までの総取引額は60億円以上、登録しているフリーランスの数は12万人と急成長中です。
米国においては、大手FreeLancerの2012年までの総取引額は推定5.5億ドル、登録フリーランスはなんと250万人ということです。

 では、クラウドソーシングを通しての3DCG制作の発注はどのような状況なのでしょうか。日本と米国、それぞれ大手3社のクラウドソーシングサイトを見て回りました。仕事検索欄にソフトウェアの名前、 ModelingやAnimationを入力し調べます。
日本ではモデリング案件が稀に見られる程度でまだまだ未開拓です。モーションにいたっては皆無です。

 米国では、すでに多くのゲーム制作、モデリング、アニメーションの案件が進行しています。 例えば、oDeskというサイトでMayaで検索したところ、一月の案件数は40件と出ました。これはセミナーで得た情報ですが、Animationはニーズの高い仕事Top4に入っているようです。これにはFlashや動画編集なども含まれており、3DCG案件の数を示すものではありませんが、Animationの需要の高さをうかがい知ることが出来ます。

 2013年5月に3DCGデザイナーの人材派遣を行うデジタルスケープがクラウドソーシング「クリ博オンラインワーク」のサービスを開始しました。現時点では3Dモデリング & CADのカテゴリーはあるもののまだ依頼はないようです。しかし、クラウドソーシングスタイルの潮流は、ゲーム、3DCG業界にも迫ってきていることを感じさせる発表でした。

■ 人材確保競争に勝利するための鍵はテレワークとクラウドソーシングにあり

 このようにクラウドソーシングを通してのフリーランスの活躍の場は世界的に増加傾向にあり、これによって、テレワーカー(在宅勤務)の数も増えているものと予測されます。

 常時雇用型のテレワークは難しいですが、当社は今後もテレワークの可能性を模索しつづけるつもりです。日本を救う希望の働き方ですから、そうたやすくあきらめるわけにはいきません。どのような形でテレワークを導入するかは、まだお伝えできませんが、次の一手の準備はすでに始めています。

 無名な小さな制作会社が、有能な作り手をいち早く確保するにはどうすればよいか。どうやら、その答えの鍵は、テレワークとクラウドソーシングが握っていることに間違いはないようです。

AUTHOR

sumioka