チュートリアル      2021.01.19 ( 最終更新日:2021/01/22 )

コラム:コントラポストとギリシア美術

ポージングに関連して、
ちょっとだけタメになるお話を仙人がしてくれるみたいですよ。

登場人物

モモ

まだ駆け出しの入社2年目。謙虚に学ぶ姿勢を忘れない。特技はアクション。

FOX

モモのお供。もともと彼も若き3DCGアニメーターであったが、
臆病な自尊心と尊大な羞恥心をこじらせてこんな姿になった。今もプライドだけは一丁前。

仙人

モモの師匠。忍としてもモーションデザイナーとしても超一流の存在。
徳川慶喜を生で見たことがある。


そうそう、ポージングで思い出したが
コントラポスト」の話もしておこうかの。

あっ!えーと…うまく説明できないけど…
ポーズに動きを出すあれですよね!

何? キロポスト?

もとは西洋美術の用語なんじゃが、
片足に重心をかけてもう片足は脱力させる…というような、
左右非対称のポーズのことを「コントラポスト」と呼ぶんじゃ。
イタリア語で「相反するもの」っちゅう意味だったかの。

この図でいうと
右がコントラポストを取り入れたポーズじゃ。

あー、こういうのコントラポストっつうのか。

左よりも右のほうが
腰とか胸に傾きが出てて、動きのあるポーズに見えますね。

うむ。
さて、先ほどの図なんじゃが、実は
どちらも古代ギリシア時代の彫刻を再現したものじゃ。
なんと今から2000年以上も前に、ギリシアの者たちは
美しいポーズの法則を手探りで編み出しとったわけじゃなぁ。

人間って、すごいなあ…

もちろん、突然コントラポストに目覚めたわけでもなく、
何世紀にもわたる長い年月をかけて
少しずつその様式美を発展させていったんじゃがな。

で、今の俺らがその技術にタダ乗りしてるわけか。
いい時代に生まれたわ。

ほほ。良い財産を後世に残してくれたものじゃな。
ここで、先人が努力した道筋も見てみると
ポーズによって我々が受ける印象がどれだけ変わるのか、
はっきり分かって面白いぞ。
というわけで、今回はギリシア美術とコントラポストの発展の歴史を解説しよう。

あー…歴史… いちおう高校…
世界史とってたんで… だいじょぶとおもいまーす…
授業中ほぼ寝てたけど…

俺日本史だったからたぶん分かんねーや。

さほど入り組んだ話をするわけでもない。
まあ肩の力を抜いて聞いてくれればそれでよいぞ。


古代ギリシアにおける美術様式の変遷

少しばかりむかしのはなし。
18世紀のドイツに、ギリシア美術に心を寄せる美術評論家がおったそうな。
その男は、名をヨハン・ヨアヒム・ヴィンケルマンと言った。

あーっ!一日たったら忘れそうな名前!

この男、ギリシア美術に惚れこみすぎたあまり
ギリシア芸術模倣論』という書物を著し、
その素晴らしさを世に広めんと語りに語り尽くしたのじゃった。

懐古厨じゃん。

言い方!

ほっ、流行は繰り返すとはよく言うからのう。
実際、ヴィンケルマンの考え方はその後の美術界に大きな影響を与えて、
「新古典主義」という大きな波が巻き起こったんじゃ。
話が脱線するからこれ以上は割愛するが…。

ま、無駄なものを取っ払って
いろいろリセットしたくなる気持ちは分かるかもな。

…なにかあったの?

モモ、人の過去をあまり詮索するでない。

すみません…。

話を戻そう。
ヴィンケルマンはその著作で、ギリシア時代の美術の変化を
4つの時期に区切って、以下のように分析しておる。

様式と時代期間ヴィンケルマンの評論
①古い様式
【アルカイック期】
前7世紀ごろ猛々しい勢いがあるが、カタい。
力強いけど優美じゃない。
②大いなる様式
【クラシック期・前期】
前5世紀ごろカタさではなく鋭さが出てきた。
美しく、高貴で偉大なイメージ。
(彫刻家の例)フェイディアス、ポリュクレイトス
③美なる様式
【クラシック期・後期】
前4世紀ごろマジで優美。もう最高ですわこれ。
(彫刻家の例)プラクシテレス、リュシッポス
④模倣の様式
【ヘレニズム期】
前4~1世紀なんか細かいところにこだわりすぎじゃない?
可憐だけど中身ないよね。むしろ退化してるわ
(彫刻の例)ラオコーン、ミロのヴィーナス

ヘレニズム期にだけ当たり強いな

それは、ヴィンケルマンが
「人物の動きに激しさはいらない!最小限の動きで充分!」
という理想をギリシア美術に対して抱いていたからじゃ。
彼がそんな考えに至った背景というのは、
さっきのイラストに書いてあった通りぞ。

ま~、なにが美しいかなんて
価値観は人それぞれですしね…。
わたしはラオコーンの迫力、好きですけど…。

ひとまず、ヴィンケルマンの好みはそばに置いておこう。
それぞれの時期に作られた彫刻のポーズを、順に見てゆこうか。


コントラポストの進化

①【アルカイック期

まず初めに【アルカイック期】じゃ。
この時期には「クーロス」とよばれる像がたくさん作られたんじゃが、上の図はその一例。
ちなみにクーロスはギリシャ語で「青年」の意である。

うーん、片足はちょっと遊んでるけど…
起立!気を付け!って感じ!

なんか、カタいな。

じゃが、動きがないぶん堂々とした力強さも感じるな。
この女性版の「コレー」という像もあるが、クーロスと同様直立のポーズじゃ。

たしかに、
まじめで頼りがいありそう、クーロスくん。

それでも、当時の彫刻家もやはり硬さを感じておったのか、
もっと自然な人間らしさを出すために
顔の表情に工夫をこらしていたようじゃ。
これを見てみよ。

▲仔牛を担ぐ男(紀元前560年頃)

えっ怖

サイコパスの顔つき

アルカイックスマイルと呼ばれる表情じゃ。
口元だけ、かすかな微笑みをたたえておる。

でも、目が笑ってなくてこわいです…

確かに、実際に微笑んだときの表情筋の動きと
照らし合わせると、不気味に見えるかもしれんな。
とはいえ、「自然さ」を追求するための試みとして
これは大きな一歩であったとワシは思うぞ。

おい、これwindowsで画像保存したら
スマイルとして自動でタグ付けされるぞ。

幸せってなんだっけ…

② 【クラシック期・前期】

さて、【クラシック期】の時代に移ろう。
ポリュクレイトス作『ドリュポーロス を見てみると…

コントラポスト、ちょっと出てきましたね!
腕とか足もちょっとリラックスしてる!

LEONの表紙かと思った。

ジローラモならもっと遊ぶハズじゃのう。

図に補助線を示しておるが、
腰と胸の傾きが、互いに相反するような形になっておる。
これによって右足側に体重が乗り、
左足は程よく脱力
したポーズをとれるのじゃ。

さっきみたいな表情じゃなくって、
体の動きで生命感を出そう!っていう
チャレンジが目に見えますね!

③ 【クラシック期・後期】

さらに時代を進めて、
プラクシテレスの『アポロ・サウロクトノス 』の例じゃ。
木に寄りかかって、無邪気にトカゲを捕まえようとする姿が表現されておる。

なるほど~、そういうシチュエーションなら
片腕を大きく上げても自然に見えるし、
そのために胸の傾きも大きくつけられます
ね。

LEONの見開きかと思った。

ジローラモの壁ドンはこんな感じかもしれんのう。

モモの言う通り、胸の傾きが大きくなっていて、
そのバランスをとるために腰も逆方向へより傾く
こうして明確なコントラポストが生まれるわけじゃな。
カタさが取れて遊びが生まれる。

さっきから真偽不明のジローラモ情報が…

ジローラモにかかればトカゲすら口説き落とせる

次いきましょ

④【ヘレニズム期】

さて、最後にヴィンケルマンが酷評した
【ヘレニズム期】の作品を見て終わりにしようぞ。

ミロのヴィーナス、これは言わずと知れた名作じゃな。

S字のラインっていったら真っ先にこれ思い浮かびます!
コントラポストで、女性らしいしなやかさも表現できますね。
そして足元のポージングがおしゃれ!
頭から足先までぜんぶきれいです!

偶然の賜物じゃが、両腕が失われていることで
我々の想像力がかきたてられるのも興味深いな。
どんな腕のポーズだったのか、絶対的な答えが無いからこそ
鑑賞する者それぞれに異なる答えが存在する…。
アニメーターならどんな答えを描くじゃろうな。ほほ。

あーなんだっけそれ、
「普遍的な美」?だっけ
高校の国語で習った気がする。

おお、よく知っておるな。
『手の変幻』も今や教科書に載っておるのか。
知らなんだわい。

国語も寝てたし全然おぼえてないや…

で、かの有名なラオコーン
腕や足も含めて体全体でグネグネうねっておる。
ヘビに締め付けられる苦しい感情をダイナミックに表現した作品じゃ。

さっきのミロのヴィーナスもそうなんですけど、
胴体のひねりがけっこう入るようになりましたね、
前の時代に比べて。

うむ、よく観察しておるな。
MayaのMoxRigでいうところの回転Yの動きじゃな。
体をひねれば、奥行きが生まれて立体的に映えるポーズになる。

今までのはどちらかというと静かにたたずんでる印象ですけど、
ラオコーンは今にも動きだしそうなくらいイキイキしたポージングですね。
体の筋肉をめいっぱい動かして立体感を出す…かあ、なるほど~。

ま、これが古代ギリシアにおいては
最も発展したコントラポストの形といえるじゃろうな。
ヴィンケルマンの好みを無視するなら、じゃが…。


▲コントラポストの強さと印象の変化

最後に、時代によるコントラポストの変化をまとめてみたぞよ。
ひとえにコントラポストといっても、その度合いによって
印象も多様に変わってくることが分かるじゃろう。

わあ、わかりやすいです!
キャラクターによってうまくコントラポスト使い分けるなら…

アクション性を出すならラオコーンくらいに、
可憐に見せたいならヴィーナスくらいに、
どっしり芯の通った感じはクー…ロス?くらいに、
ちょっと余裕感じさせるくらいなら、ド、ド、ドォ……
左から二番目くらいがちょうどいいかもですね!

ドリュポーロスじゃな。
うむ、そのような感じで「どう見せたいか」考えて
コントラポストの強さを調整するとよいぞ。
個性のみならず、シチュエーションも踏まえて
最適なポーズにできると吉じゃ。
バシッと決めるところなのか、特に目立たせる必要のないシンプルな動作なのか…
といった具合にな。

ふーん。
とりあえずコントラポストやっときゃいいってわけでもないんだな。

ちょっと分身してみました!
どうでしょう仙人?

うむ、良い感じじゃ。
これでコントラポストの強さと与える印象について少し分かってもらえたかの。

リファレンスとして様々なポーズを観察することもあると思うが、そんなときは
体のラインや腰、胸、頭の傾きを、補助線を引いて捉えてみると理解の助けになるであろう。
今回紹介した彫刻の画像のようにな。

どんなポーズも、簡単なカタチに整理すれば
しくみもわかりやすいですしね。

いちど単純化して考えることは、何かを観察するうえでもモノを組み立てるうえでも役に立つ。
絵が描けなくとも、補助線を引いて全体像をざっくりとつかむことは幾分容易であろう。
…あっ

早く人間になりたい

さ、最近はぞうさんもお鼻でおえかきできますし、ね…

そう…じゃな。
さて次はタイミングとスペーシングの話に移るとするかの。

ぞうさんエピソードでフォローした気になるなよ

AUTHOR

Yu